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台所に夫がつつつっ…と音もなくやってくる。
そして忙しく働く私の背後に亡霊のように立ちつくし、何度も大きなため息をつく。
やがて彼は原稿が書けない(正確には書く気になれない)自らの窮状について哀れっぽく訴えはじめる。
「今度という今度は、ぼくはほんとうに駄目になってしまったのかもしれない…」
この間、とくになにか手伝ってくれるわけではない。
「このままいくと来月の『S潮』に空白のページができてしまう…」
私は冷蔵庫からマリネしておいた鶏の骨付きもも肉(夫の好物)を取り出しオーブンにセットする。
「ぼくはM君(担当編集者さん)に土下座して謝らなければならないかもしれない…」
私はじゃがいもを火にかけ、ホウレンソウを水に浸して洗い物にかかる。
そんな私の背中に、畳み掛けるように弱音を吐き続ける夫。
「きみもこんな男とずっと一緒にいて、さぞかし気持ちが塞ぐことだろうよ…」
ほんまに気が塞ぐわ。家にいるとずっとこの調子でたいへん鬱陶しいので、気分転換に近所のバウスシアター
(5月末に閉館という悲報が…)に映画を見に出かけた。
たまたま上映していたのは『キューティ&ボクサー』というドキュメンタリー。
いろいろありながらも40年間一緒にいるアートな夫婦の話だった。

映画はブルックリン在住のアーティスト篠原有司男(80歳)と
その奥さんの篠原乃り子(59歳)の日常を淡々と追いかけていく。
生活の細部と過去の映像から、この奥さんが相当に苦労したことが伝わってくる。
19歳で21歳年上の破天荒な前衛芸術家と結婚し、半年後に妊娠。
いつしか実家からの仕送りは途絶え、夫はアルコール依存症に。
いまも暮らしは楽ではなさそうで、家賃は滞納しているし、天井からは雨漏りがするし、
40歳を目前にした一人息子もアルコール依存症になりかかっている気配…。
しかしこの夫婦、アートのことだけ考えて生きてきたためだろうか、たたずまいが清潔で美しい。
ふたりとも年齢を超越して人間として可愛らしく、なんともいえず魅力的なのである。
乃り子さんいわく「(結婚生活は)ものすごく大変だったけど、もう一度やるかと言われたら、やると答える」。
そうなんだろうなあ。私なんてまだまだ修業が足りないなあ。
とにかく、とても面白いドキュメンタリーだったので、もう公開は終わってしまいそうだけれど、
DVD化されたらぜひご覧になることをお勧めします(とくに既婚者の方)。
私がなぜか好きだったのは、飼い猫を洗うシーン。
こんなにおとなしく洗われる猫は初めて見たかも…。
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- 2014/03/07(金) 22:21:31|
- 日記
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| トラックバック:0
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| コメント:7
関西の方だったんですか?
不謹慎ながら、笑ってしまいました。。
そうですよねぇ。この日記のおかげで「○潮」への
連載の先生の意気込みを知られてしまいましたもの
ねぇ。期待感の重圧に押し潰されそうなリアル先生
のドキュメント。でもこうなったら、ツツイヤスタカ路線
で破天荒に暴走するしかないんじゃないでしょうか。
・・あるいはアンドレ・ブルトン路線の自動書記路線
で。いままでにない作風が開けるかも。
とにjかく文壇的フレームなんかぶっ飛ばすいきおい
でお願いします。
- 2014/03/08(土) 09:36:44 |
- URL |
- ムル #-
- [ 編集 ]
はじめまして!
『Cutie and the Boxer 』 とても面白そうな映画ですね。
去年の「九份に行ってきました」というブログを読ませていただいて以来、
その手があったのかと「ハリセン」をさっそく作り、
夫の頭をバシバシとしばき倒してストレスを発散する日々ですが、
(いい事を教えて下さって、いつかお礼を言わねばとずっと思っていました!
ほんとにスカッとしますね!! 笑 )
この篠原氏のボクシングペインティングを見て、
ハリセンペイティングでもやってみたくなり、
変な創作意欲(?)がムクムクとわいてきました!
ああ、試してみたいッ! DVD化されたら是非見たいです。
それから。。。おとなしく洗われる猫ですか?
よろしければこちらをご覧下さい。
http://www.youtube.com/watch?v=M7SHhby3v_A#t=56
こちらも併せてどうぞ。
http://www.youtube.com/watch?v=QXc-Jfs3sds
では。。。
- 2014/03/08(土) 09:57:08 |
- URL |
- フェル博士 #ajCLRenQ
- [ 編集 ]
前にも書きましたけど、このムルっていう精神寄生体のやつは設定が「嫌がらせキャラ」なんです。
宿主のほうはいたって小心な臆病者なんですがね。
宿主のほうは松浦先生をとても尊敬しているのです。だから、ムルの放言は見逃してやってください。。(これは、ムルが書いています。臆病者の宿主はたいへん無口な奴ですので。)
- 2014/03/08(土) 23:13:39 |
- URL |
- ムル #-
- [ 編集 ]
松浦さん、回想録、自伝、私小説みたいの書くのはどうですか。みんな、松浦さんの人生にすごく関心を持っているんだから。幼年期からずっと、大学退官、あるいは紫綬褒章受賞(でしたよね?)にいたるまでの松浦さんの人生の軌跡って、多くのひとが関心持ってることだもの。ぜひ、それをお書きになれば、どうでしょう。
- 2014/03/09(日) 10:28:54 |
- URL |
- ムル #-
- [ 編集 ]
IZUMIさんの後ろをついて回る先生のお姿、本当に可愛らしいです。IZUMIさんの文章が素晴らしいので、まるで映画の台本(カット割りの)でも見ているかのようです。先生のところも、ぜひ、いつかドキュメンタリーを。でも、そんな可愛らしい姿は、作品のどこからもうかがえず、堂々として刃のように鋭いのが素晴らしいです。これをお書きになる前に、「ぼくはもう・・・」「生まれて来なければ・・・」などとおっしゃっていたとは、とても想像できません。プロって、やっぱり凄い!肩で風を切って歩くようなその後ろ姿に、思わず、また黙ってついて行きたくなってしまう私です(?)。先生、例え雑誌に穴があこうと、ファンはいつまでも待っているので、全然大丈夫ですよ。(←なんて言うと、編集者の方に申し訳ないですが、でも、そのくらい楽な気分で書いて下さいという意味です。)先生の作品を楽しみにしているファンは沢山いますので、将棋のソフトもいいですが(←図星?(笑))、そろそろ、私たちのお相手(作品を通じて)もよろしくお願いいたします。先生、頑張って下さい!
- 2014/03/09(日) 14:37:22 |
- URL |
- あき #XcHMMwdw
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