川の光日記

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虚脱状態のなか村上春樹を読む



数日の間、躁状態に包まれていた我が家に、ようやく平常が戻ってきた。
いつまでも奇声を発しながらウクレレをかき鳴らしたり、
ケーキのドカ食いをしたりして浮かれてばかりはいられない。
検査の結果が予想を超えてよかったとはいえ、タミーはまだ完治してはいないのだから。
これから、腫瘍を抑え込むための、地味で長い闘いが始まるのだ…。

しかしとにかく、ここ一か月の張りつめた気持ちがかなり楽になったのは事実である。
思えばこの間、ほとんど映画も見ていないし、読むのは癌や犬の健康に関する本ばかりだった。
そんなわけで、躁のあとの虚脱状態のなか、久しぶりに話題の新刊でも…と手に取ったのは、
村上春樹の『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』。

夫はいま新聞の文芸時評を担当しているため、さすがに刊行が国民的ニュースとなった
この本をパスするわけにはいかず、早々に読み終えたのものの、かなり悩んでいる様子。
村上春樹は、評価しても批判してもどこからか必ず異論が出てくる作家であり、
「褒めても地獄、貶しても地獄」ということらしい。
「褒めてるんだか貶してるんだかわからないように書けばいいのではないか?」と提案したが、
それはそれで、なかなか難しいものがあるらしい。

私はといえば、もともと村上春樹のいい読者とはいえず、小説より旅行記のほうが好きだったりするため、
過度な期待は抱かずに肩の力を抜いて臨んだところ、いつものようにあっという間に読み終わり、
それなりに楽しめたし、読後感も決してわるくはなかった。

もちろん、いつものように、疑問符がつく箇所は山のようにある。
「たぶん」とか「あるいは」とか「ある意味では」が頻出する、歯の浮くような翻訳調の会話。
いまの日本に「フォースと共に歩みなさい。鮭に負けないように」なんて言う38歳の女がいるだろうか?
私だったら、そんなセリフを吐かれたら、即座に5メートルくらい後ずさってしまうと思うのだが。
そして、毎度おなじみの、主人公のひとりよがりな人物像。
いつも受け身で、他人と深い関わりをもたず、異常なまでに几帳面できれい好きでむっつりスケベ。
無個性なのに女性にもてまくり、旧友からも「おまえが一番男前だった」などと褒められる。

すべてが作り物めいてわざとらしい(よく言えば「寓話的な」)この小説のなかで、
ひとつだけどうしようもないほど生々しくてリアルなものがある。
それは主人公の救いようのない“孤独”だ。
おそらくこの一点で、村上春樹は多くの読者の心を捉えているのだろうなあ、と思う。

この作品はある意味で、『ノルウェイの森』の21世紀版の変奏でもある。
登場人物の配置もほぼ同じだし、主人公がフィンランドに行くのも、たぶんそのことと関係がある。
それまで才能が注目されてはいたが新進作家のひとりにすぎなかった村上春樹は、
『ノルウェイの森』によって大ベストセラー作家になり、同時に絶対的な孤独のなかに追いやられた。
その当時の心境は旅行記『遠い太鼓』などにかなり率直に書かれているけれど、
『色彩を持たない~』は、そんな自分の作家としての歩みを振り返る“巡礼”の試みなのかもしれない。

なお、夫の苦慮苦悶の結果は、水曜日の朝日新聞の朝刊に掲載されるので、お楽しみに。

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  1. 2013/04/22(月) 15:26:34|
  2. 日記
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:6
<<涙目タミー | ホーム | 夫の日記 その7>>

コメント

時評、楽しみです。

IZUMIさんの元気な書評が読めて、嬉しいです。
村上作品、私も「苦手」な方に属しているのですが、読んでみようかな?
「孤独」ですか。でも、人間、一人でいる時より、大勢の中にいた時の方が、返って強く孤独を感じたりもしますよね。村上さんは、どんな風に孤独を描いているのでしょう。
さてさて、松浦シェフは、どんな風に料理されたのかな。朝日の時評、楽しみにしています。
  1. 2013/04/22(月) 19:11:10 |
  2. URL |
  3. あき #XcHMMwdw
  4. [ 編集 ]

いつもこうやってタミーちゃんがくっついているのですね。幸せな時間ですね。 あ、苦悶していらっしゃるのでしたね。でもタミーちゃんがいて幸せそう。
  1. 2013/04/22(月) 20:13:38 |
  2. URL |
  3. mariko #-
  4. [ 編集 ]

タミーちゃんの鼻が・・・

きっと、ブタっ鼻になってると思うけどw
タミーちゃんは、お父さんが大好きなのね。
でも、松浦先生、重そう・・・^_^;
水曜日の朝刊ですね!
チェックいたします(^_^.)
  1. 2013/04/23(火) 12:03:04 |
  2. URL |
  3. くみたん #fwkSvwQ6
  4. [ 編集 ]

おはようございます

先生とタミーちゃん 日常の幸せな風景ですね

あきさんのように、村上作品が苦手なわけではないのですが
なぜか、今まで手にしたことが一度もありません
話題になり過ぎると、ついつい敬遠してしまうあまのじゃくな性格のせいかもしれません・・・
今回は私も読んでみようかな
  1. 2013/04/24(水) 09:48:57 |
  2. URL |
  3. まゆこ #-
  4. [ 編集 ]

拝読

朝日の文芸時評、拝読しました。お疲れ様でした。歯に衣着せぬ松浦節の一方で称賛も忘れず、塩加減で甘さを調節するような(いや、この場合は、砂糖で塩加減を調節と言うべきか?)程良い味わいに仕上がっていると思いました。流石、先生です。
何より、今回の出版を一つの現象として捉えた視点がいいですね。改めて考えてみたら、私自身も、村上作品が嫌いな訳ではなく(時期を置いてからですが、一通り読んでいます)、こういうお祭り騒ぎに巻き込まれること自体を嫌悪していたのだと気づかされました。確かに、「ノルウエイ・・・」を読んだ時には、感動したんですよね・・・。新作、読んでみることにします。IZUMIさんが仰っていた村上さんの「孤独」の描写、私にはどう映るか、楽しみです。
  1. 2013/04/24(水) 15:19:20 |
  2. URL |
  3. あき #XcHMMwdw
  4. [ 編集 ]

村上春樹

みなさま、いつもありがとうございます。
主人の文芸時評は、なかなか巧妙に切り抜けた感がありましたね。
彼が今月の作品で一番好きだったのは、ハルキではなく角田光代さんの短編だったらしいです。
ちなみに、初ハルキ体験をするなら、短編から入るのが案外いいかもしれません。『神の子供たちはみな踊る』とか…
  1. 2013/04/25(木) 21:39:49 |
  2. URL |
  3. IZUMI #-
  4. [ 編集 ]

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