川の光日記

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『川の光2』 Q&A第三弾



お待たせしました。Q&Aの第三弾(最終回)をお届けします。

●続編について

Q「川の光PART3」はありますか?(りりさん)
Q ズバリ川の光3そして外伝2の誕生はあるのでしょうか? (まやてつさん)

A 『川の光3』や『外伝2』はありません。続きを読みたいと言ってくださる方々がたくさんいらっしゃるようで、
本当に有難いことと思うのですが、『川の光』シリーズはもう打ち止めです。
ぼく自身が「それについては、また別の物語……」などと、何か思わせぶりなことを書いて、
いかにも期待を煽っているように受け取られているのかもしれません。
それはちょっとぼくの意図とは違うので、このご質問には、ここで少し詳しくお答えしたいと思います。

『川の光2』の連載終了後、ぼくは読売新聞に「連載を終えて」という文章を書きました(10月30日朝刊掲載)。
それは──
「……この物語にすっぽり浸りこんでいた一年二か月は、夢のように楽しい月日だった。
九月半ばに最後の数十回を集中して一気に書き上げたが、最終行に「終わり」と記したときには虚脱状態になり、
その後二、三日は茫然として何もできなかったものだ。この世界から立ち去らなければならないのが、
淋しくて悲しくてたまらなかったのである。/しかし、それで良いのだ。どんなにその内部にとどまっていたくても、
いずれは終わりが来ること、来ざるをえないことそれ自体も、物語というものの持つ本質的な魅惑の一つなのだから。」
──で、終わっています。しかし、実は原文にはこの後にさらに数行あり、
それは紙面のスペースの制約でカットせざるをえませんでした。

以下がその部分です。

「実際、終わりのない物語といったものがどんなに退屈か、考えてみればよい。
一つの物語が終わっても、また別の物語が始まる。
物語は無数にあり、わたしたちは皆、その錯綜した絡み合いのなかで生きている。
悲嘆と苦痛に満ちたこの現世での束の間の生を耐え易くしてくれる、大きな慰藉がそこにはあるのだ。」

松浦寿輝作『川の光』連作は、『川の光』『川の光 外伝』『川の光2 タミーを救え!』の3冊で終わり──
そういうことでよいのではないでしょうか。
「また別の話」は無数にありうるのだけれど、それは別に、語られなくてもよいのです。
むしろ語られないほうがいいような気がします。
あるいは、誰か別の人が代わって書いてくれるというのでもいいと思います。

ぼくにとって、これまで読んだなかで最高の本は何かと訊かれたら、アーサー・ランサムが書いた
12冊の冒険物語──『ツバメ号とアマゾン号』に始まり『シロクマ号となぞの鳥』に終わる
「ランサム・サーガ」だと、躊躇なく答えます(岩波書店刊)。
これは本当に本当に、素晴らしい12冊なんですよ。

ところで、その第1作である『ツバメ号とアマゾン号』のラストで、
夏休みを終えようとしている子どもたちが、次の冒険について語り合う場面が出てきます。
冬じゅう計画を練って、次の夏休みにはもっと素晴らしいことをやろうよ、と。
「北極」に行ってもいいし、「南極」の探検もいいなあ、などと
(子どもたちが空想のなかで「北極」や「南極」に見立てたもののことですが)。
金鉱探しに行くのも面白いぞ、とか。そして、ナンシイ船長がさらに付け加えてこう言います──
「南にいくんだったら、カヌーをもってかなくちゃならないわ。早瀬をくだるんだから。
そうすると海に出るのよ。いろんな事件がおこるわよ。ひょっとしたら船だって手にはいるわ。」
この彼女の言葉は、ずっと、ずうっと、長い間ぼくの頭に取り憑いて離れませんでした。
今でもこの言葉を、ときどき胸苦しい気持ちで思い出します。
というのも、ここで話題にのぼったさまざまな計画のうち、「北極探検」は第4作の『長い冬休み』で、
「金鉱探し」は第6作の『ツバメ号の伝書バト』で、それぞれ実現するのですが、
子どもたちが湖尻から流れ出している川をカヌーで南にくだって、海に出るという筋書きの物語は、
結局ランサムによって書かれずに終わったからです。

中学生から高校生にかけて、この12冊の「サーガ」を何度も何度も、はしばしの文章を暗記してしまうほど、
繰り返し繰り返し読んでいたぼくは、その「カヌーくだりの物語」を、ああ、何と読みたかったことでしょう!
もうランサムがとっくのとうに死んでいて、その物語がもはやこの世にありえないという冷厳な事実が、
とんでもなく不当で、赦しがたいほど理不尽なことのようにさえ思われたものです。
実はランサムは死ぬ前にもう1冊、13番目の物語を書こうとしていたらしくて、
それがその物語だったのかもしれません。

しかし、今、ぼくはこう思うのです──「書かれることのなかった物語」が残っているということ、
それは何と素晴らしいことではないか、と。だってそれは、書かれなかったからこそ、
ぼくたちの夢のなかでいつまでも輝きつづけてくれるのですから。
未知のものがどこかにあること、測量されない場所、完成しない地図があること、
それは素晴らしいことなのではないでしょうか。
グローバル化が進んで、世界中にナビゲーションシステムが張り巡らされ、
迷子にさえなれなくなってしまった今、世界に「空白」が残っていることの貴重さが、
なおいっそう輝かしいこととしてぼくの心に迫ってきます。

ぼくは実は、この「カヌーくだり」の物語を自分で書こうと考えたことさえあります。
23歳のとき、イングランドの湖沼地方のウィンダミア湖に行ってみたのも、その「ロケハン」みたいな
気持ちがないわけでもありませんでした(しかし、ランサムが物語の舞台のモデルにしたウィンダミア湖には
実は南端の湖尻から流れ出す川は実在しないのですが)。
そういうのは、ランサムファンの誰もが考えることのはずで、ぼくはじっさい、
ランサムの熱狂的な読者の一人がそういう「模作」「偽作」を実際に書いてしまって出版したという記事を
昔どこかで読んだような記憶があるのです。その後、どう検索してもそういう書物は発見できないので、
ぼくの偽の記憶だったのかなあと今では考えていますが。
読者の皆さんのうち、どなたかが『川の光』の続きを書いてくださってもいいですよ、と先ほど言ったのは
そういう意味なんです。

結局、『川の光』全3冊のこの物語自体が、「ぼくの読みたい物語がこの世に存在しないのなら
いっそのこと自分で書いてしまおう」という、若いころふと頭をかすめたこの夢想が、
この歳になってようやく実を結んだということなのかもしれません。
ぼくのなかで、『川の光』3冊の丸々全体の萌芽は、つまるところ、ナンシイ船長のこの
「南にいくんだったら、カヌーをもってかなくちゃならないわ。早瀬をくだるんだから。
そうすると海に出るのよ。いろんな事件がおこるわよ」
という、このほんの2行ほどの言葉の中にあったのかもしれません。
「いろんな事件がおこるわよ」──なんと、わくわくさせてくれる言葉ではありませんか!

これでご質問への答えになっているかどうかわかりません。ただ、こんなふうに説明すれば、
アーサー・ランサムのこの「書かれなかった物語」──“カヌーで南にくだって海に出る”という
この「実現しなかった冒険計画」が、『川の光2 タミーを救え!』のラストシーン
(タータとチッチがフリスビー盤の〈川の光〉号での川くだりを夢見るシーン)に呼応していることに、
お気づきになっていただけたかと思います。

●今後の仕事について

Q 次の連載などは考えていますか? (ねこゆめさん)

A 小説の新連載の企画はいまのところありませんが、
『文學界』に隔月で連載中のエッセイ「黄昏客思」と、
朝日新聞に月1回掲載されている文芸時評はまだ続きます。

それから、2013年春あたりに、本が3冊出ることになっています。

『新潮』の5年間にわたる連載をまとめた『明治の表象空間』(新潮社)、
退官記念講演と最終講義を採録した『波打ち際に生きる(仮題)』(羽鳥書店)、
詩をめぐる講演と短文を集めた『詩の波 詩の岸辺(仮題)』(五柳書院)。
『川の光2』は、それから少し遅れて、来年の半ばくらいの刊行になる予定です。

(刊行記念のサイン会などがあったら、今度はぜひタミーも参加したいと言っています! お楽しみに!)




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  1. 2012/11/05(月) 21:48:12|
  2. 川の光
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:6
<<絵本の企画を思いつく | ホーム | 夫が紫綬褒章を受章>>

コメント

こんばんは

遅ればせながら、紫綬褒章受章おめでとうございます。

沢山の質問にも丁寧に答えて頂きありがとうございました。
質問の場を設けて下さったIZUMIさんもありがとうございます。
ファンにとっては、とても嬉しい機会でした。

皆が心待ちにしてた質問に「続編はない」とハッキリ言い切った先生。
私としては残念なことに変わりないですが、それぞれが心の中で、それぞれの物語を紡いでいく。
それもまた素敵なことなのかも。
ずっと皆の心の片隅に残り続けるのですから。

ですが先生。
人生は何が起こるかわかりません。

だって、「川の光」が終了した時も「続編はない」と仰っていたのですから(笑)

今回のタミーちゃんの写真も和みますね。
川の光がキラキラしてて、物語の一部のようです。
いつも写真が綺麗ですよね。写真集を出してほしいぐらいです。

  1. 2012/11/05(月) 22:30:49 |
  2. URL |
  3. まゆろあ #-
  4. [ 編集 ]

あまりにも楽しくウキウキした毎日でしたらから・・・

先生&IZUMIさん第三弾までありがとうございました。正直掲載を終えて・・・のコラムを読んだ際何となくこれで終わりなんだろうな~という予感はしておりました。色々な玉手箱を残し、その先の数々の夢は自分の中で膨らませていく・・・。
でも私はやっぱり先生の物語を読んで見たかったです!!!
タミーを救え~は実は掲載当初全く気が付かず、私の記憶では第20回目から島津さんのイラストが目に入り、何となく読み始めたのです。
つまりその分楽しい時間が実際より短い訳ですが、
その間私自身も色々な事があり、むしろ実生活では辛い日々の方が多かった訳です。
でも毎日朝刊を読み終えると翌日の朝が楽しみで楽しみで、先生の小説を読ませて頂いている時は全ての辛さや悲しみを忘れ、ウキウキしてしまったのです!!!
あまりにもその時間がかけがえのないものだったので、一縷の望みを懸け、大胆なお願い染みた質問を
送ってしまいました。
今毎日、先日までの朝が早く来ないか・・・と楽しみにしていた時間がとても愛おしいと痛感しております!!!
その想いが掲載を終えた後の夢を一人一人紡ぐ
力になってくると信じて・・・。

悪あがきついでに、川の光2のアニメ化があったら良いですね・・・。
  1. 2012/11/06(火) 08:28:55 |
  2. URL |
  3. まやてつ #FCWDJ4oA
  4. [ 編集 ]

なるほど

そうか、なるほどと納得しました。
それにしても唯一、謎で気になってしまうのがマクダフです。学習して得た犬並外れたあの知識は、一体誰の影響なのか?もしかしてホームレスかも知れないですね。
そして、バラ一輪を置くという、紳士的で粋な振る舞いはマンションのおばあさんだけでなく、全女性のハートをキュンとさせたのではないでしょうか?ビス丸にモテた話(マクダフはモテてた自覚はなかった?)を「後でしてやる」と言っていたけれど、これも『川の光2』に是非加筆していただきたいと思います。
そして『川の光2』は読者の心を奪い、最後まで掴んで離さなかったのは何故か?全国の老若男女が、重度の『川の光2中毒症』になってしまったのは何故か?私なりに分析してみました。世知辛いこの世の中、誰もが癒しを求めて、動物達の空想の世界に浸りたかったのかも知れないですね。私の場合は、間違いなくそうです。脱帽です。
  1. 2012/11/06(火) 09:59:13 |
  2. URL |
  3. ビス丸のファン #-
  4. [ 編集 ]

タミーちゃんに会いたい!

IZUMIさん、先生、こんにちは。毎日お忙しいことと存じますが、体調は如何ですか。
この度は、私たちの質問にご丁寧にお答えいただき、どうもありがとうございました。
連載を終えての続き、このブログで読めて、本当に良かったです。IZUMIさん、ありがとうございます!あのラストには、そんな秘密があったなんて。もの凄く、得した気分です。先生の想像していた世界に触れることが出来て、幸せです。
続編の件、私たちも、先生に無理強い(?)させようなんて思っている訳じゃありません。でも、続編を願うほど、あの物語の紡ぎ出した世界は素晴らしかった。その気持ちを分かってほしいということです。また違う場面で、先生の創造した世界に触れることが出来れば、私たちは幸せです。
確かに、「お休み」などの場合も、忙しい時はたまらなく欲しいですが、それがずっと続くと嫌になるでしょうね。「永遠に休み」だなんて言われたら、それこそ地獄になってしまうでしょう。
サイン会は、タミーちゃんに会えるんですか。行きます、行きます。絶対行きまーす!個人的には、「波打ち際」のご本、楽しみにしています。

※褒章の件ですが、(前回勲章と書いてしまいました、すみません)父は「春の褒章」で、旭日勲何等とかいうものだそうです。国の機関の長を勤めたので(でも田舎です)、きっと、年齢がくれば誰でもいただけるのでしょう。先生のとは、レベルも格も違います。失礼しました。
両親は、前日から皇居の近くのホテルに泊まり、着付けなどもして貰ったそうです(費用は、自分たちで出します)。留袖は黒以外と指定があったとか。集合場所に、何台もバスが来ていて(先生は、きっとお車のお迎えですね)皇居に運ばれます。お弁当が出たが、皇居の外の講堂みたいなところで、まとまって食べたそうです。お昼頃入って、終わったのは夕方。陛下と大臣のお話を聞き(何班かに分かれ、流れ作業のように)、記念撮影。この撮影に、とにかく時間がかかるんだとか。三浦友和さんとご一緒なら、百恵さんとも一緒に写られるのでは?(ドキドキ・・・。)勲章をいただいて、終了。体の丈夫でない母は、立ち疲れて、翌日から二日間ぐらい寝込んだそうです。IZUMIさんも、体力を温存しておいて下さい。おめでとうございます。授賞式、頑張って下さい。
  1. 2012/11/06(火) 12:08:10 |
  2. URL |
  3. あき #XcHMMwdw
  4. [ 編集 ]

お礼を言うしか・・・

ありません。
これ以上ないくらいのシンプルな質問に丁寧なご返事をいただいて本当にありがとうございました。

いまだ心残りはあるけれど、先生のお答えのひとつひとつにざわついていた心がなんだか静かになりました。
「終わりのない物語がどんなに退屈か」・・そうですよね。造花が美しくても虚しいのと一緒で、終わりがあるから素晴らしいのですね。

わかってはいても欲の深い心に優しくとどめをさされたような感じです(笑)が、これからは3冊の「川の光」を手元において、繰り返し開いてみたいと思います。

  1. 2012/11/07(水) 11:21:10 |
  2. URL |
  3. りり #1wIl0x2Y
  4. [ 編集 ]

回答ありがとうございました!

回答ありがとうございました!
とてもうれしいです!
かなり単純に質問してしまったと後から思いましたが、
とても丁寧で詳しかったので、
感激です!

改めて、
ありがとうございました!

  1. 2012/11/11(日) 21:37:23 |
  2. URL |
  3. ねこゆめ #1OPaO./E
  4. [ 編集 ]

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