川の光日記

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2月の事件簿

feb01

2月最後の朝、目覚めると窓の外は大雪。
先日の3cmの積雪どころではない積もり方である。
さっそくタミーと公園に繰り出し、誰もいないのをいいことに、ふたりで狂ったように走り回る。

tsuika02
feb03
↑雪にまみれ、恍惚の放心状態。

帰宅後、犬の毛にからまった雪玉を除去しながら(これがかなりの大仕事)
2月の出来事を振り返ってみた。

●羽生善治先生にチェスのイベントに誘っていただいてからというもの、
夫は学年末の業務で忙しいにもかかわらず、寝ても覚めてもチェスのことばかり考えている。
そのため『文學界』4月号に掲載予定の退官記念講演の採録のまとめが遅れ、関係者に大変なご迷惑をおかけしたうえ、
『川の光2』新聞連載のストックも底をつきつつあって、担当の待田さんと挿画の島津さんをはらはらさせている。

●タミーが散歩中に前足を負傷。病院で体重を測られ、メタボ犬であることが発覚して、
“たみーぱみゅぱみゅ”という芸名でデビューする計画が頓挫しかける。
幸い怪我は一週間ほどで完治。しかし、肥満はいまだ解消されず。

●世界最小のカメレオンがマダガスカルで発見され、芥川賞の授賞式スピーチのネタになるほど話題を集める。
『川の光2』に登場させてはどうかと提案するが、あっけなく却下される。
狭いスペースに入り込んで配線を繋ぎ変える作業など、けっこう得意そうな気がするのだが…。

●『川の光2』では、マンションの一室に閉じ込められていたマクダフとチッチが、ようやく脱出に成功。
救援チームはこれから渋谷の繁華街を抜け、次の集合場所である東京タワーを目指す。
武蔵野の田舎でのんびり暮らしていた動物たちが都心を横断することになるわけで、前途多難な予感。

●ハナちゃんが今月読んだ本
ちくま学芸文庫『ニーチェ全集』8~15巻
永井均『これがニーチェだ』
永井均『ルサンチマンの哲学』
ドゥルーズ『ニーチェと哲学』
クロソウスキー『ニーチェと悪循環』
私にはうかがい知れない理由によって、どうやらニーチェにハマっているらしい…。

●夫を出し抜くための「いまどきのネタ」をキャッチすべく、つねにアンテナを張っている私だが
残念ながら今月はあまり新ネタを仕入れられなかった。
そんななか「土下座が流行っている」という朝日新聞の記事を読み、驚愕。
その翌週に掲載された「いまゾンビがきてる!」という内容の記事には、あまり賛同できなかったのだが。
永遠のゾンビブームが続行中の私としては、ゾンビは断じて一過性の流行ではない!と主張したい。

feb04
↑猫の本領を発揮して、ストーブの前から離れないハナちゃん。

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  1. 2012/02/29(水) 13:14:26|
  2. 日記
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動物写真はむずかしい

ハナちゃんが最近、私が撮る写真にあれこれ注文をつけ始めた。
きっかけは書庫で、岩合光昭さんのこんな写真集を発見したこと。↓



「私とほぼ同じ柄の猫なのに、なんだかとても素敵に見えるのはなぜかしら…」
「だって岩合さんは動物写真の第一人者だもん! 同じように撮れるわけないもん!」
「背景も吉祥寺じゃなくて地中海だしね…(ため息)」
「でも、岩合さんのこっちの路線↓なら、少しは真似できるかも」



↓というわけで岩合光昭風ハナちゃん(のつもり)。
hanaphoto01

「たまにはこういうくだけたスナップもいいんじゃない?」
「なんかイメージと違うんだけど…」
「少しバックが飛んじゃってるのが惜しいね。その点さすがに岩合さんは上手だなあ…」
「たしかに、技術的な問題もあるんだけど…」
「じゃあ、最近話題の写真集『みさおとふくまる』↓の路線で行ってみるのはどう?」



↓『みさおとふくまる』風ハナちゃん。
hanaphotoa

「ポーズが微妙に変化しただけとも言えるけど…ある種のリラックス感は出てませんか?」
「う~ん、私が求めてるのは、リラックス感とはちょっと違うのよね…。
地中海が無理なら、お手本にしてほしいのはむしろこの本↓なんだけど」



そうか、“光と影”の演出で文学っぽい雰囲気を醸し出せばいいのね!というわけでさらに一枚。
hanaphotob

この写真も結局、ハナちゃんのイメージ通りではなかったようだが、
「逆光を背景にした立ち姿がりりしい!」「“作家の猫”らしい知性が背中に漂っている!」
などと一生懸命プレゼンして、ようやく納得してもらえた。
動物写真は本当にむずかしい。写真教室にでも通おうかと思う今日この頃。
そのうち「森山大道風ハナちゃん」(新宿の裏通りでロケ)や「ブルース・ウエーバー風タミー」にも挑戦してみよう。
それにしてもハナちゃん、「メディアへの露出には興味がない」と宣言していたはずでは…。

↓タミーが撮影会の様子を見にきたので、ついでに“光と影”の手法で撮影してみた。
tsuika01

  1. 2012/02/27(月) 23:49:55|
  2. ハナちゃん
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春の犬映画①『人生はビギナーズ』

cosmo01

公開中の『人生はビギナーズ』という映画を見た。

主人公はロサンゼルス在住の38歳のイラストレーター。最近、父親を癌で亡くしたばかりだ。
この父親は、妻が死去した半年後、75歳でゲイであることをカムアウトし、
若いボーイフレンドを作って人生を謳歌し始めた矢先に、癌を宣告された。
主人公はそんな父親の狂い咲きのような最期にあっけにとられ感嘆しながらも、
いつも孤独の影を漂わせていた母親の姿を思い出して、複雑な気持ちを抑えきれない。

彼は父親の家を整理し、飼っていた犬を引き取り、自宅に連れ帰って間取りを説明する。
「ここがダイニングルーム。時々人が来て食事することもある。ここがキッチン。こっちはベッドルーム」
毛がぼさぼさしたジャックラッセル・テリアは、まるで不動産業者に案内される顧客のように、
落ち着き払って新しい主人のあとをついて歩き、説明に聞き入る。

夜の公園に出かけたふたりはベンチに座る。
「きみはジャックラッセルっていう犬種なんだよ。もとはキツネ狩りのために作られた犬種だけど、
 もう狩猟は行われなくなったから、主に愛玩用に飼われているんだよ」
主人公は一生懸命、ジャックラッセルにジャックラッセルの説明をして聞かせる。
犬は彼を見上げて言う。「ぼくは単語を150くらい知ってるけど、話せないんだ」
ちなみにこの映画では、犬の発言はすべて字幕で示される。

やがて主人公はあるパーティでひとりの魅力的な女性と知り合う。
犬は言う。「いままでにないタイプだね」
ややあって「続くといいね」

cosmo02

女性との仲が不安定になってくると、こんな発言をして犬なりになぐさめる。
「知り合う前から、うまくいかないってわかってたじゃないか」

仮面夫婦だった父と母。本当の気持ちがつかめない恋人。
そういえば過去の恋愛も長続きせず、いつも自分から別れを切り出していた。
人と人は結局、決してわかり合えないのではないか。
そんな苦い思いに拘泥する不器用な主人公を、犬は静かに見守り続ける。

映画会社は“オフビートでおしゃれな恋愛コメディ”という方向で宣伝しているようだが、
見てみたら、繊細な哀しみに満ちたアート映画だった。
監督はグラフィック・デザイナーでアーティストでフィルムメーカーのマイク・ミルズ。
彼自身と彼の父親をモデルにした自伝的な作品で、犬も実在したらしい。
ユアン・マクレガー、クリストファー・プラマー(本作でアカデミー賞助演男優賞を受賞)など
錚々たるキャストのなかで、ジャックラッセルのコスモ君(9歳)が強烈な存在感を放っている。
特別な芸を披露するわけではなく、人間をじっと見て目で語るだけなのだが。

cosmo03
「もう結婚したの?」

公開はまもなく終わってしまいそうだが、犬好きにおすすめ。DVDでぜひ。


  1. 2012/02/24(金) 22:54:24|
  2. 動物の映画
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ある早春の出来事

chess01

庭の梅が次々と開花している。本格的な春の気配である。
タミーの怪我もかなり回復したし、また野川公園にでも散歩に行きたいなあ…
とのんびり考えていたら、夫が一枚のファクスを握りしめて、興奮した様子でやってきた。

「こ、こ、このファクスを見て。見て」
「丸っこくて可愛い字…でも差出人の名前がサインみたいになってて読めない」
「その四文字をよく見てよ!『羽生善治』って書いてあるでしょうが!」

なんと夫は、羽生先生から直々に、3月末に日仏学院で行われるチェスのイベントに誘っていただいたのである。
夫の趣味はこれまで転々と移り変わってきたが(マジックに凝って、巨大な「ジャンボカード」をはじめ、
まったく何の役にも立たないガジェットを山ほど買い込んだ時期もあった…)現在は将棋とチェスに落ち着いている。
羽生先生には、以前、日経新聞主催の王座戦の観戦記を書いたとき、
局後にインタビューさせていただいたり、授賞式では図々しく祝辞を述べたりしたことがあった。
羽生先生が将棋だけでなく、チェスにも造詣が深いのはよく知られている。
今回はウクライナのグランドマスター、チェルニン氏が10人ほどのチェス愛好家を相手に「多面指し」をすることになり、
そのお相手のひとりにと声をかけていただいたらしい。

「これは疑いなく、ここ数年来で僕の身に起きた、最も震撼すべき出来事だな…」
「よくわからないけど、きっとすごいことなのよね?」
「たとえて言うなら、井上陽水からカラオケ大会に誘われたくらいの衝撃…」
「その比喩、いまひとつ腑に落ちないんだけど…」
「そして行ってみたらフランク・シナトラがいて、『あずさ2号』をデュエットすることになったような感じとでも言いましょうか…」
「ますますわからないなあ…」
「君みたいに半分動物化した人には、チェスのグランドマスターがどれほど至高の存在か、想像もできないだろうけど」
「わん?」(←いつのまにか“犬が星見た”のポーズになっている)
「世界チャンピオンを除けば、チェス界で最高のタイトルなんだよ! 
初代のGMは、あのラスカーやカパブランカやアリョーヒンだったんだ!」
「わんわんわん?」
「ああ興奮するなあ。とりあえずチェルニンの対局スタイルを研究しておかなければ。
彼はどうやらイングリッシュ・オープニングとレティ・オープニングが得意らしいんだよね。
それとチェスは体力勝負だから、体も鍛えておかないと」

対局は一か月後だが、間に合うのだろうか…。

chess02
↑ タミーに「イタリアン定跡」を教える夫。


  1. 2012/02/21(火) 17:39:50|
  2. 日記
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秘密兵器登場

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ハナちゃんはアマゾンの段ボール箱を愛している。
陽だまりに置かれた箱にぴったり収まって、うつらうつら眠ったり、考え事をしたりするのだ。
しばしば、ビニールパッキングされた本が底に張り付いた状態のまま箱に入りこむので、
私が注文した本を、私より先に読んでしまうことも多い。

そのようにして、最近は“東大話法”を駆使して原発問題を語る学者たちの欺瞞に憤慨し、
ニーチェにおける動物のテーマについて思索にふけるハナちゃんなのだが、
私は先日、そんなハナちゃんの理性を一瞬にして崩壊させる、あるガジェットを入手した。

↓これがその秘密兵器である。

hane02

「ドゥルーズとニーチェを媒介する存在としての動物…あら、何かしらこのオブジェは」

hane03

「何かしら何かしら?ちょっとだけ見てみよう」

hane04

そしてついに訪れる、理性崩壊の瞬間。

hane05

適当なところで取り上げないと、いつまでも狂ったように遊んでいる。
この猫おもちゃには「チューチューカルテット」よりもはるかに強力な磁力があるようだ。

↓その間、捻挫から回復しつつあるタミーは
 夫に無理やり「変な顔」の芸をやらされている。

hennnakao

  1. 2012/02/18(土) 23:37:27|
  2. ハナちゃん
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タミーの負傷、そしてメタボ疑惑

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タミーが散歩中に、左前足の小指の爪を何かにひっかけてしまい、大出血する事件が発生。
獣医さんの応急処置で出血はおさまったが、軽くびっこをひいているうえ、患部が赤く腫れ上がり、
なんだかひどく痛そうなので、再度病院を訪れ、念のためレントゲン写真を撮ってもらった。

幸い骨折はしていなかったが、レントゲン写真を見ると関節の部分が白く濁っている。
捻挫であろう、という診断で、炎症を鎮める薬をもらって帰ってきた。

そんなわけで、いつも「アハッ」顔の能天気な犬なのに、この数日はなんとなく沈んだ様子。
これまで病気や怪我とはあまり縁がなかったこともあって、
我が家では、以前ハナちゃんがやさぐれていた時期に近所の猫と大ゲンカして
重傷を負って帰ってきたとき以来の衝撃が広がっている。
ハナちゃんも心なしか同情して、タミーをそっと見守っている気配だ。

怪我に加えてショックだったのは、獣医さんで測ってもらったタミーの体重が
なんと38キロに達していたこと。半年前、ワクチンを打ったときには33キロだったのに!
どうも最近、背中がムチムチしてるな…とは思っていたが、これではまるでメタボ犬ではないか!

そして、タミーが最新鋭のデジタルX線装置で神妙に前足を撮影されている間、
待合室に置いてあった「あなたの犬の本当の年齢、知っていますか?」
というパンフレットを何気なく見たら、「大型犬の6歳=47歳」と書かれていた。
勝手に「43歳くらいだろう」と思い込んでいたので、これまた衝撃を受けた。
もう立派な中年ではないか!

我々は家族会議を開き、動物も人間も気を引き締めてダイエットに励むべしと決議した。
そして「これが最後だからね」と確認し合いながら、「ローズ・ベーカリー」のキャロットケーキを
みんなでおいしくいただいてしまった。でも、これで本当に最後。のはず。

↓6年前、我が家にやってきた頃のタミー。右も左もわからない仔犬だったのに、いまやメタボ疑惑が…。
kega02

  1. 2012/02/16(木) 19:41:53|
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着ぐるみ主義者たちの宴

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日仏学院で開催中のカプリッチ・フィルムズの特集上映で、『猫、聖職者、奴隷』というドキュメンタリーを見た。

これは何年か前、日本でも話題になったインターネットの仮想空間
「セカンドライフ」にハマったアメリカ人を取材した作品で、
ヴァーチャル空間に教会を作って信者を集めたり、「ご主人様と奴隷」ごっこをしたりする人が登場するのだが、
なかでも私が強い印象を受けたのが「猫」のパート、つまり着ぐるみ愛好者たちのコミュニティである。

彼らは日頃、ネット上で動物のアバターを使って交流しているのだが、
それだけでは満足せず、定期的に動物の着ぐるみを身にまとって集まり、コンベンションを開催する。
こういう人たちは実はアメリカにはたくさんいて、通称“ファーリー”
(英語では Furries または Furry Fan)と呼ばれているらしい。

kigurumi02
↑映画に登場するファーリーのひとり。
自分のアイデンティティは猫であると宣言し、猫耳と尾っぽをつねに装着して生活している。

動物にあこがれるあまり一体化したいと願う、この異様な人々の集団はなんなのか。
激しく興味をひかれて調べてみたところ、以下のようなことがわかった。

・ファーリーはSF大会などを母体に、アメリカの西海岸で1980年ごろ誕生。
・主なイメージソースは、古くはイソップ物語、近年では『ウォーターシップダウンのうさぎたち』、
 ディズニーのアニメ版『ロビンフッド』、『スター・ウォーズ』のイウォークなど。
 ビートルズの『マジカル・ミステリー・ツアー』における着ぐるみ姿を
 ファーリー史上の画期的なイメジャリーと位置付ける意見も。
・現在、北米を中心に30以上の「ファー・コン」つまり着ぐるみ大会が毎年開催されている。
・コンベンションでは、擬人化された動物をテーマにしたさまざまなジャンルの作品の発表、
 パネルディスカッション、ダンスパーティ、物販などが行われる。

kigurumi03
↑ある「ファー・コン」における集合写真。

『スター・トレック』オタクやエルヴィス・プレスリーのそっくりさんが集まる大会が
あるのは知っていたが、こんな着ぐるみ愛好家たちのめくるめく饗宴が存在するとは。

アメリカという国は本当に面白く、奥深く、そしてちょっぴり怖い…。

kigurumi04
↑サモエドの着ぐるみを着てサモエドを散歩させる猛者の画像も発見。


  1. 2012/02/13(月) 19:21:45|
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『川の光』もうひとつの源流

先日取り上げた『ドリトル先生』シリーズに続いて、
もう一冊、『川の光』に大きな影響を与えた本をご紹介したいと思う。
ケネス・グレアムの『たのしい川べ』である。

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↑『たのしい川べ』はタミーの愛読書でもある。
タミー専用の書見台(ニーチェアのオットマン)に乗せてじっくり読み返し中。

このあまりにも有名な児童文学は、あらすじを要約するのがむずかしい。
副題は「ヒキガエルの冒険」だが、実は主人公はヒキガエルではなく、訳者の石井桃子も指摘しているように、
冒頭で出会って一緒に暮らし始める、川ネズミとモグラである。
春から秋へ、雪が降る厳冬からまた春へと移り変わるイギリスの自然を背景に
小動物たちのささやかな日常がつづられていく。

夫はエッセイ集『散歩のあいまにこんなことを考えていた』(文藝春秋刊)に収められた
「大人のための児童文学・私が薦める一冊」という短い文章で、『たのしい川べ』について次のように書いている。

「構成がほとんど破綻していると言ってよいこの物語が放っている光芒はなんとも不思議なものだ。
一方で、地下住居の安息、頬をなぶる甘い川風といったバシュラール的な物質的想像力の快楽がある。
しかしまた他方、そうした小さなユートピアに自足することの諦念にかすかな哀しみが忍びこみ
(川ネズミと旅ネズミの章)、それがこのささやかな童話に人生の時間の奥行きを賦与している」

そうなのだ。これはまさしく、大人のための児童文学なのである。
いま読み返しても、モグラが友達に対してふと感じる小さな心のすれ違いや、
海ネズミの波瀾万丈の体験を聞いて興奮した川ネズミの、
あこがれが嵩じて錯乱してしまう心境に、思わず胸がしめつけられる。

夫が一番好きなのは、モグラが散歩中に昔の自分の住居を嗅ぎつけて、ネズミと一緒に探し当てるエピソード。
「地下の家が昔のまま残ってるんだよね。玄関の前庭に彫像が置いてあって。モグラは大喜びで、
ネズミを案内してまわるわけ。そのうちイワシの缶詰とか食べ物も見つかって。その日はちょうど
クリスマス・イヴで、野ネズミの子どもの合唱隊が来て本格的に買い出しに行って、
やがてみんなでテーブルを囲んで宴会になる。その食べ物がどれもおいしそうでね…」

この地下の家のイメージは後々まで彼のなかに残っていて、
なんと小説『不可能』第一章の地下室にまで繋がっているそうである。

食べ物に関してはタミーも夫に同感で、『たのしい川べ』で最も注目すべきは食事の描写だという。
「とくにネズミとモグラが最初にいくピクニックのお弁当がいい」とのこと。
このときのお弁当の中身は「コールドチキン、コールドタン、ハム、キュウリの酢づけ、
サンドウィッチ、肉の缶づめ、ビール、レモネード、ソーダ水」。
なんて贅沢なピクニックバスケットだろう。




余談だが、ふたりの独身者の同居生活を描いたこの童話は、欧米ではゲイに愛好されており、
夫がロンドン滞在中に見に行った『たのしい川べ』の舞台版はまさしくゲイ的な演出で、
隣に座った青年に微笑みかけられ、芝居がはねてから「これからどうするの?」などとやさしく誘われて
ちょっとドキドキしたそうだ。もちろんお誘いは丁寧に辞退したらしいが。

kawabe02
我が家の庭では、今朝、紅梅が咲き始めてようやく春の気配。
いつもこの梅はフライング気味に年明け早々に開花するのだが、今年の冬は本当に寒かったらしい。



  1. 2012/02/11(土) 10:40:18|
  2. 川の光
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たそがれゆく日々

tasogare01

朝、新聞の一面を見ると、「大飯原発 4月再稼働目標」の見出し。
政治面のコラムでは、自殺防止強化月間のキャッチフレーズ「GKB47」の不評が話題になっている。
文化面を開くと、石原都知事が衰弱しきった現代文学を盛大にディスっている。
日本社会に緊張感がなくなり他力本願が蔓延した結果、国民全体がフリーター化し、
サルトルの『嘔吐』の主人公ロカンタンのように「他人との関わりの中で自分を殺していく
むなしさとか屈辱に耐えかねて吐き気を感じる」人間がいなくなってしまった、のだそうだ。

『川の光2』では、教会ねずみのマルコが酔って愚痴をこぼし続けている。
マルコは酒癖の悪さがたたって、妻や子供にも見捨てられてしまったのである。
彼は酒くさい息を吐きながらタータに絡む。
「ああ、おいらはこんな地下室で、独りぼっちで酒をのみながら、むなしく年を取っていくのか」

要するに、新聞が映し出す世界は今日もまた、とめどもなく暗い。

「『嘔吐』のロカンタンって、こういう理由で吐き気を感じてたんだっけ?」
「ロカンタンは〈実存〉に対して吐き気を覚えるの。自分を殺すも何も関係ありません」
「むなしさとか屈辱とかっていうのは、自分の心境に引きつけての発言なのね」
「そうでしょうね」
「ところで最近、教会ねずみマルコに自分の思いを託してないですか?」
「いやべつに、そんなことはありませんよ。ぼくはまだ妻にも逃げられてないし」
「それにしてはずいぶん熱心に書いているような気が…」
「いや、マルコはあとで再登場して、アル中も治り、大活躍するの。その伏線です。
まあ近頃、黄昏のような何かを感じる瞬間がなくはないけど」
「たそがれ感ね…」
「むなしさと屈辱に耐えかねて吐き気を…」
「えっ!」
「冗談冗談。それはともかく、今回、退職することになって、
いろんな方々が温かいメッセージを寄せてくださるわけだけど」
「退官記念講演のパーティのスピーチはどれも感動的だったよね」
「大久保清朗君も、自分のブログで心の籠もった回想を書いてくれたしなあ。嬉しかった」
「うーん、あれには感動したわ」
「でも、『ほんとに良い人でした』みたいに過去形でこれほど褒めていただくと、
なんだか自分がもうこの世の人ではなくなったような気が…」
「たしかに、ある意味、弔辞に近いのかも」
「これは生きているうちに自分自身への弔辞を聞ける、貴重な機会なのかもしれないね」
「……」
「……」

教会ねずみマルコには、早くシラフになって立ち直ってほしいと私は思う。


  1. 2012/02/07(火) 13:02:30|
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動物好きの絵師、歌川国芳

森アーツセンターギャラリーで2月12日まで開催中の「没後150年 歌川国芳展」に行ってきた。
一点一点ゆっくり見ていくうちに「ああ、この人の絵は本当にいいなあ」との思いが募っていく。

kuniyoshi01
↑代表作のひとつ、「讃岐院眷属をして為朝をすくふ図」

kuniyoshi07
↑川口版武者絵シリーズ「天竺徳兵衛」

どの絵も溌剌として、躍動感にあふれている。
三枚続きの大判錦絵などは、まるでワイドスクリーンの映画だ。
それも、CGや特撮をコテコテに使った、波瀾万丈のアドベンチャー大作である。
辻惟雄先生によると「広重が小津安二郎なら、国芳は黒澤明」とのこと。納得。

そして、国芳という人はおそらく無類の動物好きだったはずだ、と私は思う。
ワニザメ、鯨、ガマ、熊、虎、きつね、雀、犬などなど、さまざまな動物が登場するし、
武者絵も美人画も、動物がらみのほうが生き生きしている。

なかでも数多く取り上げられている動物は猫。

kuniyoshi04
↑「其まま地口猫飼好五十三疋」のうちの一点。
東海道五十三次の宿場名を猫の姿にひっかけて表現している。
なかには「大きなタコを引きずる猫」=「重いぞ」=「大磯」など、
「それはちょっと無理では?」と思われるやや苦しいダジャレも…。

実際に国芳の猫バカぶりは有名で、多いときは十数匹が家や仕事場を歩き回り、
いつも懐に数匹の猫を入れて、話しかけながら仕事していたらしい。

kuniyoshi05
↑猫と一緒の自画像。自分の絵は後ろ姿のものしか残していない。
丸めた背中といい、軽く握った左手といい、ほとんど猫と同化している…。

この人は天保の改革を「バッカじゃないの~?」とあてこすった絵を描いたりなどして、
反体制的な傾向があったので、お上にマークされていたのだが、
尾行していた隠密が「浮世絵界の大物で弟子もたくさんいるのに、なんか風体はやくざっぽくて、
性格はやたら明るい。気に入らないとギャラがよくても仕事断っちゃうし、
どうやら金銭にはあまり執着がないみたい」(以上、図禄の資料を勝手に超訳)
とレポートしているのがなんだかおかしい。
きっぷがよくて親分肌で、思わず「よっ!」と声をかけたくなるような、
チャキチャキの江戸っ子だったようだ。

ちなみに、これまで私が読んだなかで最高の国芳論は、
橋本治『ひらがな日本美術史6』に収められている三つの章
「その九十五 うねるもの」「その九十六 うねるもの続篇」
「その九十七 うねるもの残篇」である。
なぜこの絵師の作品はこんなにも「いなせ」で、力がみなぎっているのか?
その秘密を、北斎との関係や江戸末期の文化のあり方を背景に、
目からウロコが落ちるような語り口で解き明かしている。









  1. 2012/02/05(日) 13:43:14|
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タミーの散歩ポエム

sanpopoem01

タミーが深く眠っている。
ときどき瞼や手足がぴくつき、「ぷひゅひゅひゅひゅ」と寝言をいう。
どうやら夢を見ているようなのだが、いったいどんな夢なのだろうか。

ハナちゃんの無意識は言語として構造化されているわけだが、
タミーの無意識は「意識の流れ」状になっているのではないか、というのが私の仮説である。

たとえばこんな感じ。

ああ今日の散歩はたのしかったな久しぶりにK公園にお父さんと車ででかけて
車にのるとぼくは急にうれしくなって前の座席のすきまからついつい身をのりだしてしまって
お父さんは左側の視界がふさがれてあぶないからやめてほしいってぼくをしかるんだけどどうしてもやめられなくて
信号が赤になって手があくとお父さんは左のてのひらでぼくのあたまをなでてくれて
公園の駐車場にはいるとぼくはもう待ちきれなくなって
ドアをあけてもらうとすぐに飛び出して車のまわりをぐるぐるまわるんだ、少しあたまがおかしくなったようなかんじで
ぼくたちはいつもの広場をとおりぬけて人どおりのすくない森のなかの道をあるいていく
そしてぼくとお父さんのひみつの丘にのぼって風にふかれて斜面をかけまわってキャッチボールをする
さむいけどお日さまが真うえにあってつよい光がまっすぐふってきてすごくいいきもちなんだ
いつまでもいつまでもそうしていたいけどやがてお父さんはさむくなってきてタミー、もうそろそろ帰ろうってつぶやく
でもひみつの丘から車まで帰り道をゆっくりふたりで歩いてとちゅうでまたキャッチボールをするのもすごくたのしくて
家にかえって肉球をふいてブラシをかけてもらってソファのうえで散歩のことを思い出しているうちに
ぼくはだんだんねむくなってねむりの波があたまのなかになんども打ち寄せては引いてまた打ち寄せてくる
まるで何年かまえの夏にお父さんとお母さんと泳ぎにいった西伊豆の海岸のなみうちぎわみたいに

sanpopoem02
↑K公園の「ひみつの丘」にて。


  1. 2012/02/02(木) 22:29:38|
  2. タミー
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プロフィール

IZUMI

Author:IZUMI
賢くて優しかったハナちゃん
(2003~2013)の思い出に



『川の光2 タミーを救え!』
絶賛発売中!

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